日本人の頭痛は「我慢」が当たり前になっている
日本の職場や家庭には、「頭痛くらいで病院に行くのは大げさ」という空気がまだ根強くあります。実際、日本頭痛学会の診療ガイドラインに基づく疫学調査では、緊張型頭痛の有病率は約22パーセント、片頭痛は約8パーセントと報告されています。人数にすると2000万人を超える人が緊張型頭痛を経験している計算になりますが、その多くが医療機関を受診せずに市販薬でやり過ごしているのが現状です。
働き盛りの20代から50代に特に多く見られるのが、夕方になると頭が重くなる、後頭部から首すじにかけて締めつけられるような鈍い痛みが続く、といった症状です。デスクワーク中心の方や、責任ある立場でストレスを抱えやすい方に目立ちます。「寝込むほどではないけれど、仕事や家事への集中力が落ちる」という状態を放置すると、慢性的な痛みに加えて、痛み止めの使い過ぎによる薬物乱用頭痛(MOH)という別の問題を引き起こすこともあります。
片頭痛と緊張型頭痛、あなたはどっち?
頭痛と一口に言っても、タイプによって治療法はまったく異なります。片頭痛は、ズキズキと脈打つような痛みに加えて、吐き気や光・音への過敏を伴うのが特徴です。天気や気圧の変化、寝不足、ストレス、生理前後などで悪化しやすく、「ホッとした瞬間」に痛みが来るのも片頭痛の特徴です。一方の緊張型頭痛は、頭全体がギューッと締めつけられるような重い痛みで、肩こりや首こりを伴うことが多いとされています。
診断の目安になるチェック項目がいくつかあります。月に2回以上頭痛がある、頭痛で予定を崩すことがある、市販薬が効かなくなってきた、痛み止めを月10日以上飲んでいる、朝起きた時から痛い、といった項目に一つでも当てはまる場合は、専門的な治療が必要な片頭痛の可能性があります。「単なる肩こり頭痛」と自己判断せずに、一度専門医に相談してみるのがおすすめです。
専門外来の探し方と受診の目安
頭痛の診療に対応しているのは、主に脳神経内科と脳神経外科です。日本頭痛学会の専門医が在籍する「頭痛外来」を標榜しているクリニックも全国各地に増えてきています。探すときのポイントは、ホームページで頭痛外来の有無を確認すること、駅から近いなど通いやすさを重視すること、そしてMRIやCTなどの画像検査をその場で受けられるかどうかを確認することです。
受診のタイミングとしては、初めて経験する強い頭痛、今までにないパターンの頭痛、神経症状(手足のしびれやろれつが回らないなど)を伴う頭痛は、迷わず医療機関を受診してください。「危険な頭痛」のサインを見逃さないことが何より大切です。また、市販薬が効かない、効く量が増えてきた、という場合も我慢せずに相談しましょう。片頭痛は適切な治療でコントロールできます。一人で我慢せず、一緒に最適な治療を探す姿勢が大切です。
最新の治療選択肢と費用のイメージ
頭痛の治療は、大きく分けて「痛いときに飲む薬(急性期治療)」と「発作を予防する薬(予防治療)」の二本立てで考えます。近年、この二つを一つの薬でまかなえる新しい選択肢も登場しています。
| 治療カテゴリー | 代表的な選択肢 | 費用のイメージ | こんな人に向く | メリット | 注意点 |
|---|
| 急性期治療 | アセトアミノフェン、NSAIDs、トリプタン製剤 | 保険診療で処方されるため、医療機関ごとの窓口負担で対応可能 | 痛みが来たときにすぐ対応したい人 | 即効性があり、発作時の生活への支障を減らせる | 使用頻度が増えると薬物乱用頭痛のリスク |
| 予防療法 | 抗てんかん薬、抗うつ薬、β遮断薬、Ca拮抗薬 | 保険診療の範囲で継続可能 | 月に2回以上発作がある人、生活に支障が出ている人 | 発作の頻度と重症度を減らせる | 効果が出るまでに数週間かかる場合がある |
| CGRP関連薬 | 抗CGRP抗体(注射薬)、リメゲパント(経口薬) | 保険適用の対象。処方は頭痛専門医の管理下で行われる | 既存治療で効果が不十分な人、予防治療を続けたい人 | 片頭痛に特化した作用で、予防と急性期の両方に対応する経口薬も登場 | 専門医の処方が必要。一部の薬剤は自己注射のトレーニングが要る |
| 非薬物療法 | 鍼灸、理学療法、リラクセーション法、認知行動療法 | 保険適用の有無は医療機関や施術内容による | 薬に頼りたくない人、ストレス要因を抱えている人 | 体のこりや心の緊張にアプローチできる | 効果には個人差があり、継続が必要 |
2025年12月には、片頭痛の新しい治療薬「ナルティークOD錠75mg(一般名:リメゲパント)」が日本で発売されました。これまで急性期治療と予防治療は別々の薬を使う必要がありましたが、この薬はその両方に使える日本初の経口薬として注目されています。ただし、こうした新薬はすべての医療機関で処方できるわけではなく、頭痛診療に関連する学会の専門医が在籍する施設での対応が中心です。
気になる費用については、保険診療で処方されるため、診察料や薬剤費は医療機関ごとの窓口負担で対応できます。クリニックによってはオンライン診療を取り入れているところも増えており、通院が難しい方でも受診しやすくなっています。土日診療や夜間診療に対応している頭痛外来も都市部を中心に増えていますので、自分のライフスタイルに合った施設を探してみてください。
頭痛を減らすための生活習慣の見直し
医療機関での治療と並行して、日常生活の中でできることもあります。まず、頭痛の記録をつけることです。いつ、どんな状況で、どれくらいの強さの痛みが出たのかをメモしておくと、自分の頭痛のパターンが見えてきます。気圧の変化で悪化する「天気痛」タイプの方なら、天気予報アプリの気圧情報をチェックする習慣をつけるのも有効です。
首や肩のこりが気になる方は、デスクワーク中の姿勢を見直してみましょう。モニターの高さを調整し、1時間に一度は立ち上がって軽く体を動かすだけで、緊張型頭痛の予防につながります。睡眠不足やストレスも頭痛の大きな引き金になるため、就寝前のスマートフォン利用を控える、入浴で体を温めるなど、リラックスできる時間を意識的につくることが大切です。
漢方薬を選択肢として検討するのも一つの方法です。葛根湯や釣藤散、二朮湯などが頭痛の軽減に有用な場合があり、体質に合わせて処方されます。ただし、自己判断での服用は避け、医師の診察を受けた上で相談するようにしてください。
頭痛外来を活用して「働く力」を取り戻す
「薬を飲んでなんとか出勤している」状態は、医学的に見ればパフォーマンスが著しく低下している状態です。痛みを我慢できるレベルにするのではなく、頭痛を忘れて仕事に集中できる日を増やすことが治療の目標になります。専門の頭痛外来では、30秒程度でチェックできるリスク診断を用意しているクリニックもあり、気軽に相談のきっかけをつかめます。
頭痛のタイプを正しく見分け、適切な治療を続けることで、多くの人が「頭痛で予定を崩す」日々から抜け出しています。もし、この記事のチェック項目に当てはまる症状があるなら、お住まいの地域の頭痛外来や脳神経内科を一度のぞいてみてください。痛みを我慢する生活に、終止符を打つ第一歩になるはずです。