日本人の頭痛はなぜ「我慢」されがちなのか
日本で慢性頭痛に悩む人はおよそ4000万人、そのうち片頭痛は約840万人とされています。それだけ多くの人がいるのに、頭痛外来を受診する人はまだまだ少数派です。「仕事を休むほどではない」「市販薬でなんとかしている」という声をよく聞きます。
日本の職場では、頭痛を理由に早退しづらい雰囲気が残っています。とくに30代から50代の働き盛り世代は、会議中に痛みをこらえ、デスクで鎮痛薬を飲みながら業務を続ける場面も少なくありません。しかし、この「我慢」が問題を複雑にしています。
市販の痛み止めを月に10日以上使うと、薬が切れたときに頭痛が起きる「薬物乱用頭痛」に移行するリスクがあります。頭痛のための薬が、逆に頭痛を増やしているケースがあるのです。
さらに日本特有の要因として「気圧変化」があります。梅雨、台風、冬の爆弾低気圧――急激な気圧低下を内耳が感知すると自律神経が乱れ、血管が拡張して頭痛が引き起こされます。天気痛に悩む人は1000万人以上いるとされ、乗り物酔いしやすい人は特に注意が必要です。
頭痛のタイプを見極める:片頭痛・緊張型・群発
頭痛とひと口にいっても、種類によって対処法がまったく異なります。まずは自分がどのタイプに当てはまるのか把握しましょう。
| タイプ | 特徴 | 主な症状 | 代表的な治療 | 注意点 |
|---|
| 片頭痛 | ズキズキと拍動する痛み | 吐き気、光や音に過敏、動くと悪化 | トリプタン系薬、CGRP関連薬、予防薬 | 月2回以上なら受診を検討 |
| 緊張型頭痛 | 頭全体が締め付けられる鈍い痛み | 肩こり・首こりを伴うことが多い | 鎮痛薬、漢方薬、ストレッチ | 慢性的な姿勢不良が原因に |
| 群発頭痛 | 目をえぐられるような激痛 | 片側の目の奥、涙や鼻水 | 専門医による集中治療 | 我慢せず早急な受診が必要 |
片頭痛の診断には、国際頭痛分類が用いられます。片側だけでなく両側に痛みが出る人もいるため、「自分は片頭痛ではない」と自己判断するのは危険です。医療機関では問診と診察をもとに、くも膜下出血や脳腫瘍などの二次性頭痛を除外したうえで診断が行われます。
「初めて経験する強い頭痛」「朝起きた時から痛い」「手足のしびれを伴う」といった症状がある場合は、市販薬に頼らず早めに医療機関を受診してください。
治療の最新事情:2025年登場の新薬と選択肢の広がり
片頭痛治療はこの数年で大きく変わりました。従来は「痛いときに飲む薬(急性期治療)」と「発作を防ぐ薬(予防治療)」を別々に使うのが一般的でした。
そこに登場したのが、CGRPという片頭痛の発症に関わる物質に着目した治療薬です。2025年12月には、日本初の経口CGRP受容体拮抗薬「ナルティークOD錠75mg」が発売されました。この薬は急性期治療と発症抑制の両方に使えるのが特徴で、これまで予防薬と頓服薬を分けて管理していた人にとって新しい選択肢となっています。
注射タイプでは「エムガルティ」が注目されています。月に1回の注射で片頭痛の頻度を減らす予防薬で、従来の予防薬で効果が不十分だった人向けに保険適用となっています。初月の費用は2本で約2万7100円(保険3割負担、別途再診料や注射処置料が必要)と、高額になりがちな治療ですが、頭痛による欠勤や生産性低下を考えれば費用対効果を検討する価値があります。
一方、オンライン診療も広がっています。頭痛外来のオンライン診療では、初診から対応し、診察後1時間ほどで薬を受け取れるサービスもあります。トリプタン系薬は1錠32円から、予防薬は1日3円から(いずれも保険3割負担の薬剤費のみ)と、通院の手間を減らしたい人に選ばれています。ただし、初めての激しい頭痛や発熱を伴う頭痛はオンライン診療の対象外となるため、症状に応じて使い分けましょう。
日常でできる頭痛対策:気圧・生活習慣・記録の3本柱
気圧変化への備え
天気痛を感じやすい人は、気圧の変化速度が鍵になります。1時間に3〜5hPa下がると敏感な人は症状が出始め、10hPa以上下がると強い頭痛やめまいを訴える人が増えます。雨や台風の予報を確認したら、前日から耳まわりの血行をよくするマッサージや、首元を温めるなどの対策を始めると症状が和らぎやすくなります。
生活習慣の見直し
片頭痛の誘因には、寝不足、空腹、ストレス、生理前後のホルモン変動があります。とくに睡眠のリズムを一定に保つことが重要です。休日に寝だめすると、かえって頭痛を誘発する例も多いため、平日と休日の起床時間の差を1時間以内に抑えるのが目安です。
頭痛ダイアリーの習慣
「いつ、どのくらい痛むのか」を記録すると、自分の誘因が見えてきます。気圧、睡眠時間、飲酒、天気、生理周期などをメモしておくと、医師との相談もスムーズに進みます。最近はスマートフォンのアプリで簡単に記録できるものもあります。
地域別の受診・相談リソース
- 東京:赤坂おかだ頭痛クリニックなど、脳神経外科系の頭痛外来が充実
- 神奈川:たまプラーザの田園都市高血圧クリニックかなえがCGRP抗体薬の注射治療を実施
- オンライン:全国対応の頭痛外来サービスが初診から診療可能
頭痛外来とは、日本頭痛学会が認定する頭痛専門医が診療を行う外来です。「近所の内科でいいか」と迷う人もいますが、市販薬が効かなくなった、月2回以上頭痛がある、予定を崩すことが増えた――そんな場合は専門外来の受診を検討してください。
まとめ:頭痛は我慢するものではない
頭痛の治療は、「痛みを我慢できるレベルにする」のではなく「頭痛を忘れて仕事や生活に集中できる日を増やす」ことが目標です。市販薬に頼り続ける生活から一歩踏み出して、頭痛外来やオンライン診療を活用してみてはいかがでしょうか。まずは頭痛ダイアリーをつけ始めるだけでも、自分の頭痛と向き合う第一歩になります。
参考:日本頭痛学会の市民向けガイドライン、各医療機関の公表情報をもとに構成しています。治療費や薬剤の詳細は、かかりつけ医または頭痛専門外来でご確認ください。