日本人の頭痛、意外と多い「我慢」の代償
日本では片頭痛の患者は約840万人、慢性頭痛に悩む人は3000万人以上とも言われる。それだけ多くの人がいるのに、医療機関を受診する人はごく一部だ。理由はいくつかある。
一つ目は「市販薬で何とかする」という習慣。痛みのたびにドラッグストアの鎮痛薬を飲み続け、気づけば月に10日以上服用しているケースは珍しくない。日本頭痛学会の基準では、鎮痛薬を月10日以上、3か月以上使い続けると**薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)**のリスクラインに達する。薬が切れるたびに痛みが戻り、さらに薬を飲む。この悪循環に気づかず、頭痛を悪化させている人が多い。
二つ目は「天気痛」への戸惑い。低気圧が近づくと頭痛が起きる、台風の前に決まってつらい。耳の奥にある気圧センサーが敏感な人は、天候の変化で頭痛が誘発される。日本は四季があり気圧の変動が大きいため、このタイプの頭痛に悩む人は海外より多いとも言われる。雨の日に体調が崩れるのは「気のせい」ではない。
三つ目は「何科に行けばいいのか分からない」という迷い。脳神経外科、神経内科、内科、整骨院。選択肢がありすぎて、結局受診を先延ばしにしてしまう。頭痛外来という専門の窓口があることを知らない人も少なくない。
頭痛のタイプを知ると、対策が見えてくる
頭痛と一口に言っても、タイプによって治療法はまったく違う。
片頭痛は、ズキズキと脈打つような痛みが数時間から数日続く。吐き気や光・音への敏感さを伴い、仕事や家事に支障をきたす。脳の血管が拡張し、三叉神経が炎症を起こすことで生じると考えられている。日本での経済損失は年間2兆円規模に上るとの試算もある。
緊張型頭痛は、頭全体が締め付けられるような重い痛み。デスクワークやスマートフォンの使いすぎで首や肩の筋肉が硬直し、血流が悪くなることで起こる。肩こりとセットで悩む人が多い。
群発頭痛は、目の奥をえぐられるような激痛が毎日決まった時間に起きる。男性に多く、痛みが強烈なため社会生活が大きく制限される。
さらに気圧の変化で起こる天気痛、生理周期と関連するホルモン性頭痛もある。自分がどのタイプに当てはまるかを知るだけでも、対処法は大きく変わる。
治療の選択肢は広がっている
かつて頭痛治療と言えば「痛くなったら薬を飲む」だけだった。今は状況が変わっている。
市販薬から処方薬へ
軽い頭痛なら市販の鎮痛薬(ロキソニンS、イブ、タイレノールなど)で対応できることもある。ただし、効きにくくなった、量が増えている、月に何度も飲んでいる、という場合は専門医の診断が必要だ。市販薬にはないトリプタン系薬は、片頭痛の発作に特化した効果を発揮する。
発作と予防を1つで担う新薬
つい最近、日本で新しい片頭痛治療薬「ナルティークOD錠75mg(一般名:リメゲパント)」が発売された。従来は「痛いときに飲む薬」と「発作を予防する薬」を別々に使う必要があったが、この薬はその両方に使える日本初の経口薬だ。血管を収縮させる作用がないため、心筋梗塞や脳梗塞の既往がある人でも使用しやすい。頭痛専門のクリニックではすでに処方が始まっている。
予防療法という発想
頭痛が月に2回以上ある、あるいは生活に支障をきたしている場合、予防療法が検討される。CGRP関連の注射薬や、一部の降圧薬が片頭痛予防に有効とされ、発作そのものを減らすアプローチだ。「痛くなってから」ではなく「痛くならないようにする」治療が、いま日本の頭痛外来の主流になりつつある。
非薬物療法も侮れない
薬だけに頼らない選択肢も増えている。緊張型頭痛にはストレッチや姿勢改善が有効で、日本頭痛学会のガイドラインでも第一選択は非薬物療法とされている。頭痛専門の看護師や心理士による生活指導を受けられるクリニックもある。
受診の選択肢を比べてみる
| 選択肢 | 内容 | 費用の目安 | こんな人に | メリット | 注意点 |
|---|
| 市販の鎮痛薬 | ロキソニンS、イブ、タイレノールなど | 数百円〜千円台 | 月に数回程度の軽い頭痛 | ドラッグストアで手軽に買える | 月10日以上使うと薬物乱用頭痛のリスク |
| かかりつけ医(内科など) | 診察と処方、必要に応じて専門医紹介 | 保険適用で自己負担は比較的手頃 | まず相談したい人 | 通い慣れた場所で気軽に相談できる | 頭痛に詳しくない医師だと対応が限られることも |
| 頭痛外来・頭痛専門クリニック | 専門医による診断、画像検査、予防療法 | 保険適用(検査がある場合は追加の負担あり) | 市販薬が効かない、慢性化している人 | 正確な診断と最新治療を受けられる | 予約が必要な場合が多く、人気施設は待ちが出る |
| トリプタン系薬(処方) | 片頭痛の発作時に服用 | 保険適用 | 片頭痛と診断された人 | 発作に特化した効果 | 血管収縮作用があり、既往歴がある人は使用できない |
| ナルティーク(リメゲパント) | 発作時と予防の両方に使える経口薬 | 保険適用 | 1つの薬で管理したい人 | 日本初の「二刀流」薬 | 発売されたばかりの新薬 |
※費用はいずれも日本の公的医療保険が適用される場合の目安。実際の負担額は医療機関や検査内容によって異なる。
地域で頭痛外来を探す
頭痛外来は全国の主要都市に広がっている。
東京なら、赤坂見附駅近くの赤坂おかだ頭痛クリニックが片頭痛・慢性頭痛・群発頭痛を専門に診ている。目黒区のけやき脳神経リハビリクリニックは、脳神経外科の専門医がMRIで脳と血管の状態を確認し、危険な頭痛を除外した上で治療方針を決める。大阪ではいわた脳神経外科が24時間のWEB予約と当日MRIに対応し、夜間診療も行っている。頭痛専門医だけでなく、頭痛看護師や頭痛心理士といった専門スタッフがそろうチーム医療が特徴だ。
「頭痛外来 地域名」で検索すれば、自分の住むエリアの専門施設が見つかる。「近くにない」と諦める前に、まずはかかりつけ医に相談して紹介状を書いてもらう方法もある。
今日からできること、そして危険なサイン
受診を決める前に、2週間だけ頭痛の記録をつけてみてほしい。いつ痛くなったか、どんな痛みか、何をしていたか、どれくらい続いたか。頭痛ダイアリーと呼ばれるこの習慣は、診断の精度を大きく高める。頭痛外来でも必ず聞かれる内容だ。
その上で、次のステップを試してみてほしい。
- 市販薬の服用頻度を確認する。月10日を超えているなら、まず受診の検討を
- 睡眠時間と水分摂取を意識する。寝不足と脱水は頭痛の大きな引き金になる
- デスクワーク中は1時間に1回、首と肩をほぐす
- 気圧の変化が気になる人は、天気予報アプリの頭痛予報機能を活用する
- 「何科か分からない」なら、頭痛外来か脳神経外科に問い合わせてみる
最後に、必ず覚えておいてほしいことがある。突然、今まで経験したことのない激しい頭痛が起きた、発熱や首の硬直を伴う、手足のしびれやろれつが回らないなどの症状がある場合は、市販薬で様子を見ずにすぐ救急を受診してほしい。くも膜下出血や髄膜炎など、命に関わる病気のサインかもしれない。
それ以外の慢性頭痛は、適切な治療で十分コントロールできる。ある頭痛クリニックの理念に「薬を飲んで何とか出勤している状態は、医学的に見ればパフォーマンスが著しく低下している状態」という言葉がある。頭痛を我慢することは、仕事の集中力だけでなく生活の質そのものを削っている。
頭痛外来の扉は、思っているよりずっと開かれている。痛みを我慢する日常にさよならして、頭痛を忘れて仕事や趣味に集中できる日を増やす。その第一歩は、自分の頭痛のタイプを知ることから始まる。